ラングドシャ 田村 元
われの名のカードをカードリーダーに通してピッと今日が始まる
お正月明けの職場は全国のあんこやラングドシャの香のなか
からきもの欲しくなるころ配られてそこかしこからせんべいが鳴る
貼られゆくときはぺたぺた剥がされるときの擬音を付箋は持たず
足を組めばつま先があらぬ方角を指してゐるそんな昼下がりなり
フロアーに味噌のかをりが漂ひぬラーメンを啜る人は見えねど
一日の終りはピッと終れずにたどり着きたるホッピーの前
大根の皮の浅漬けかりこりと「まだ火曜日」を噛みしめてをり
焼き鳥の串の根もとのひと切れを食みつつ遠き人を思ふも
一尾づつ干物となりて固まれるうるめいわしと春の雪かな
作者紹介
- 田村 元(たむら はじめ)
1977年 群馬県新里村(現・桐生市)生まれ
1999年 「りとむ」入会
2000年 「太郎と花子」創刊に参加
2002年 第13回歌壇賞受賞
2012年 第一歌集『北二十二条西七丁目』刊