五月の庭 桜井 健司
景況の手触りぞよき日経を夜半の机上に折りたたみけり
漆黒の傘を頭上に掲げたる上司が雨の中を近づく
稜線を越えて五月は来たるらし風のぬるきに帽子飛ばされ
隣人は少年とその父母にして五月の庭に鯉を掲げつ
かさぶたをとりて薄き血染み出づる幼児の記憶 痛みかそけし
アベノミクス「べ」の濁音のしののめゆみだりがわしくふりそそぐまで
税理士に語尾強くわれは質されつ背なのうろくずざわめく気配
月餅の厚き艶にし齧りつくおみなの歯こそ愛しきものを
われの身とわれのめぐりの老いてゆく五月のありて暮るる鉄塔
死は常に除外例なし茂吉的措辞に一首を括るゆうぐれ
作者紹介
- 桜井健司(さくらい けんじ)
1963年生まれ。『3$分の空』、『融風区域』、『朝北』。
「音」「Es」所属。