涙を食(を)す 近藤健一
それは翼ではないからとまり木は鳥に去られてばかり、ばかりだ
嗽(うがひ)とはときに哀しき手わざかな掬へば口に疾くはこぶのみ
紫陽花は色奪はれしやうに枯れ真夏の庭に翳を増やしぬ
新幹線かけ抜け去りて一瞬といふには長き時ただよへり
海と陸分かたれてよりこの星に立ちては消えしここだくの虹
感情の一種だらうか、渇きとは 獣のなみだ食(を)すといふ鳥
スーパーと呼ばるる店に通ひたり生活を小分けに運びたり
むしろ死のそばにゐたりし子供時代のおしろい花のたね割るあそび
地下街に点滴のごと雨漏りのあり体内をゆくやうに行く
飛魚といへど水面を駆くるのみ 胸びれ・しぶき、ひかり まぶしい
作者紹介
- 近藤健一(こんどう けんいち)
1984年生まれ、兵庫県出身。東京大学本郷短歌会OB、機関誌『本郷短歌』創刊号編集長。