根の国の街 喜多弘樹
灼ける日のいつまで続くたはぶれに西瓜小僧となりて駆け出す
この都市の地下にひそめるなまぐさき青大将の日々太りゆけ
しんそこから震災詠はうたへずにうたはずにとて誰(たれ)に告ぐべき
夏空に絵文字となりて雲うごくその単調を生きて来しかも
ふとわたるあをき銀河の吊橋の下見ればはるか地球ありにき
足音のふるへかすかに聞こえくる根の国の街娼婦よどこに
辞世のうた考へあぐね詠みあぐねいつしか忘れ夕涼みせむ
真裸で夏の街路樹なぎ倒し走るもよしとたくらみしこと
稲妻を抱きしめをりし若者をやまとをぐなと呼べばさやけし
アメノウヅメの物語りせしをみなごよストリッパーとなりて飛び込め
雁の列はやまぼろしと思ふまで晩夏の空を掃き清めゐる
老いびとの女男(めを)のまぐはひ眺めつつみな死者と知る青草のなか
吉野なるうたの高みへのぼるべし。老いとは生くるはじまりにして
『前登志夫全歌集』一巻なしにけり念仏のごと声だして読む
この国を憂ひて散りし若者の青葉の泪君数へしか
作者紹介
- 喜多弘樹(きた ひろき)
1953年奈良生まれ。同郷の歌人、前登志夫に師事。以降四十数年。歌誌「ヤママユ」創刊同人。歌集『銀河聚落』、『さびしき蛞蝓』、『井氷鹿の泉』。評論集『天上に歌満つれば』。