根の国の街      喜多弘樹

  • 投稿日:2013年08月23日
  • カテゴリー:短歌

喜多短歌130823

根の国の街       喜多弘樹

灼ける日のいつまで続くたはぶれに西瓜小僧となりて駆け出す

この都市の地下にひそめるなまぐさき青大将の日々太りゆけ

しんそこから震災詠はうたへずにうたはずにとて誰(たれ)に告ぐべき

夏空に絵文字となりて雲うごくその単調を生きて来しかも

ふとわたるあをき銀河の吊橋の下見ればはるか地球ありにき

足音のふるへかすかに聞こえくる根の国の街娼婦よどこに

辞世のうた考へあぐね詠みあぐねいつしか忘れ夕涼みせむ

真裸で夏の街路樹なぎ倒し走るもよしとたくらみしこと

稲妻を抱きしめをりし若者をやまとをぐなと呼べばさやけし

アメノウヅメの物語りせしをみなごよストリッパーとなりて飛び込め

雁の列はやまぼろしと思ふまで晩夏の空を掃き清めゐる

老いびとの女男(めを)のまぐはひ眺めつつみな死者と知る青草のなか

吉野なるうたの高みへのぼるべし。老いとは生くるはじまりにして

『前登志夫全歌集』一巻なしにけり念仏のごと声だして読む

この国を憂ひて散りし若者の青葉の泪君数へしか

作者紹介

  • 喜多弘樹(きた ひろき)

1953年奈良生まれ。同郷の歌人、前登志夫に師事。以降四十数年。歌誌「ヤママユ」創刊同人。歌集『銀河聚落』、『さびしき蛞蝓』、『井氷鹿の泉』。評論集『天上に歌満つれば』。

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