光を漁(すなど)る     安田百合絵

  • 投稿日:2013年10月25日
  • カテゴリー:短歌

安田短歌131025

光を漁(すなど)る     安田百合絵

イエス、シモンに言ひたまふ『懼るな、なんぢ
今よりのち人を漁らん』かれら舟を陸につけ、
一切を棄ててイエスに從へり。(ルカ伝5章) 

カーテンに風みたしをり今朝よりはひかりを漁(すなど)る者となるべく

睫毛長きひとのよこがほ まばたきのたび翅(は)をたたむ蝶のごとしも

恋ひわたり夕窓へ倚る現し身はもはや我ではなく赤(あか)蜻蛉(あきつ)

上枝(ほつえ)よりしづく幾粒 かしこみて天の接吻(ベーゼ)と額(ぬか)に受けたり

すきとほる光の筋を喉(のみど)へと注ぎて朝の硬水よろし

傳道者言く空の空、空の空なる哉、都て空な
り、日の下に人の勞して爲ところの諸の動作
はその身に何の益かあらん(伝道の書1章)

Vanitas(空の空、) vanitatum(空の空なり)… 夜の卓にルージュ拭へるわれを我が見き

感傷は羞(やさ)しといへど春鬻ぐことなきわれのしろき足(あな)裏(うら)

悲しみと疲労のちかさ 炎天に日傘をふかくさしこみ歩む

彼岸(かのきし)が此(この)岸(きし)になるまで舟を漕ぎゆく旅を一生(ひとよ)と呼べり

手をみづに浸して葡萄洗ひをり秋思払ふといふにあらねど

作者紹介

  • 安田百合絵(やすだ ゆりえ)

1990年生、東京出身。文学部4年(フランス文学専攻)。短歌結社心の花、東京大学本郷短歌会所属。

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