赤い新撰 バケツ 「御中虫の百句」 (四ッ谷龍/選)

*句集『おまへの倫理崩すためなら何度でも車椅子奪ふぜ』以後の作品から抄出

俳句

卵さん割りますよ初春の朝

春のバケツ冬のバケツと並びけり

春泥をコーヒー牛乳に溶かして

姿見に我は映らずけふも暮れた

狂女のやうな女雛も売られ露天市

あめんぼの重みで凹む虚空かな

コットン25レーヨン75の春雲

死んだ花たくさん飾りませう(笑つて)! 

たんぽぽみたひに愛されたくてしゃがんでみた

梅の花にお経をあげる、お経に梅の花をあげる。

春の山ひとさしゆびで押しにけり

暗がりで暗がつてゐる男かな

歩いてかね?歩いて四月が来るのかね?

ツイッツイッチィー。夜明けの唄は。ツイッツイッチィー。

演奏とダンスどんどんずれる啓蟄

毎度おさわがせしますと言って本当にうるさいときた

檻中になにもゐなくて桜降る

花曇りババロアすこし身じろぎす

ぜんまいぐるぐる急に何かを思い出す 

吹田市と枚方市でいちやいちやしてた

日曜日風船持って背伸びする

舌打ちひとつで雪崩おこせるをんなはいかゞ

曼荼羅を被って眠る乞食かな

実はルピナスあたしねルピナス躁ルピなのナス

ペットボトルカルピスたぴてぷ夏の光

いいよね鰻は鰻は事故死しないよね

落ちぶれたもんだよ昨日は肩に鳥さえ来たのに

「謝って」「やだよ」「ずるいよ」「サイダー飲む?」

掃除機の先っぽだけが夏座敷

ハンカチを四五枚干して室内傾ぐ

朱肉つける感触とキスする感触

鉄工場に立てかけられた虹の鋳型

誇らしげな言葉でレースの服を編むのよ

帆立貝みたひな服を着て歌ふ

おひさまに
ひもつけてひく
ほら
晴れた

女のふともゝのやうな虹だつた

いろんなものが滴るなかに手もあった

湧きいづる噴水でありたいとおもふ

マンボウを見て少しだけ若返る

枕を猫に団扇を羽にしてをりぬ

園丁は早死にします薔薇ぱちん

金魚模様の財布は水に浮かぶだろう

考え方の方向変えてみやふ凪

水溜りのひとつひとつに虹かゝる

水泳女(およぎめ)のひざから下は烏賊になり

接吻とは口で金魚が泳ぐこと

地球のちょうど反対側で花を踏む

声色を使い分ける日百合が咲く

天にくわんおん地にぐわらんだう宙に蛇

そつくりだハイパー・インフレーションとわたし

ああああ心臓ああああ手足ああああ満月

人がみな朱色に見える原爆忌

遅れてきてぶっきらぼうに梨を食う

厭味ひとつも言わない月が厭味だ

別れたら軽くなった軽いまゝ泣いた

遅々として進まぬ議論にレモン絞る

星月夜証明を待つ定理あり

自然薯ごつごつ歩いてゐる夕方

ふくらはぎに刃物をあてゝ月を待つ

葬式なう弔辞なうなう火葬なう

世界の果てに柚子色のブイ絶対ある

李賀読むと竜が来るので梨をやる

私は王だ。臣下はいない。澄み切った秋の王だ。

「一人になるよ」と簡潔に言った流れ星

15㎝の青い定規で月を測る

すぐ錆びついてしまふ雲だよ窓磨く

初霜の水槽やがて棺桶に

ガス栓をひとひねりして寒に入る

冬空ニ大キナ錆ビタ鋏ヲ刺ス

コットンを額にあてるときしづか

震えてもええんやでと北風が云う

寒くないだって私は雌だから

豆腐タテタテヨコヨコに切る小春かな

とこぱったむ。とこぱったむ。とことつん雨。

なんにも知らずにくたばつてゐる春隣 

昆布のごと悪夢纏ひて冬ぬくし

絶叫する(身体)絶叫する(靴下)絶叫する(マフラー)死ねない

花摘んで花摘んで花摘んだ指

冬座敷物は自分で歩けない

あらゆる色を水に溶かして描く冬空

冬枯れてディシジョンツリー書いてみる

過去形が多数を占める冬の本

童謡にのって灯油売りのおっさん登場

童謡にのって灯油売りのおっさん退場

百万のなずな余震に鳴りにけり

保護室の床広いなあ指で詩を書く

食べさしのバウムクーヘン午後が広い

短歌

だだっ広いところへ行こう茹で卵でお手玉しながら裸足で踊ろう

日の出とゝもに首を吊るとき背伸びするまるで明日を覗くみたいに

みんな寝てしまった孤独な夜などは白いワンピースを脱いだりしますね

突き放す思い切り人を突き放す青梅が美しいのと同じだ

ずれてゐた。ずれてゐた君。ずれてゐた。ずれてゐたずれ。た君が好きだ。

サンドイッチ

アスファルトにマーガリン
流線形のトマト
徹夜明けの蛙は引き殺されてピクルス
あさもや濃いマヨネーズのなかを
脂身とマルチーズがこってりと歩く
やがて一面に発散する塩胡椒の蝉
それをどやしつける一万枚の屋根瓦
ゆがみかかる 風景を
まっすぐに立て直す電柱
ついに窓枠が目の前をすたんと切り落とし
わたくしは うす青いまぶたをとじて
今それを味わう。

赤い時計

鳥籠の中に時計が一つ、赤い目覚まし時計が一つ。
 
昔小鳥を飼ってゐた、赤い小鳥を飼ってゐた。
 
赤い小鳥はもうゐない。
わたしが首をしめたから。
時計のネジを巻くやうに、
キリリ キリリとしめたから。
 
鳥籠の中に時計が一つ、赤い目覚まし時計が一つ。
 
時計のネジを巻きませう。
小鳥の首をしめたよに
キリリ キリリと巻きませう。
明日のために 巻きませう。

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