はしがき 筑紫磐井
「赤い新撰・本編」に御中虫100句選「バケツ」(四ッ谷龍選・小論執筆)が決まった。まことにいい人選であった(私ではなく、御中虫のした人選が、である)と思っているし、その内容も期待に応えた力作であった。
もともと、御中虫の「このあたしをさしおいた100句」の続編を考えていたら御中虫から西村麒麟の推薦を受けた。その後、試作品が届いたが、御中虫の過激さとはちょっと違う、しかしこれまた過激な愛情がなかなかによろしい。未だあったことがない二人とは思えないほど相思相愛だ。10句づつ、10回続くのか未だ先は分からないが、すでに2回、3回と届き、連載は順調に進みそうである。まさか「このぼくをさしおいた100句」とは思っていないであろうが、御中虫の文体を越える、ありふれてない鑑賞はなかなか難しいものだ。どうやら御中虫もその内容を喜んでいるらしい。
四ッ谷龍は御中虫100句選を依頼したとき若手も併載すると知って、若手かかってこいと言ったとか、言わないとか(御中虫から聞いた記憶がある)。西村麒麟にしてみれば横綱の胸を借りるようなものだが、この際、蹴たぐりでも、猫だまし(猫ひろしではない)でもいいから横綱に土俵で両手をつかせるような波乱を起こしてほしいものだ。立派な俳句総合誌ではなかなかこういう機会はないものである。あやしげな「詩客」ならではこその優れた企画であろう。
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これを見ても分かるように、ここに登場する皆々は、今は活動を停止している御中虫のかっての指示通りに動いているに過ぎない。影の立て役者は御中虫。私もただ場を提供しているだけ。本来は御中虫が書くべきであろうはしがきだが、本人の事情があり私が変わって書くことになった。3ヶ月近くを、「このあたしをさしおいた100句」同様楽しみたい。
「ハロー、虫さん」 西村麒麟
虫さま
お手紙ありがとう!元気ですか?ごぶさたしちゃってます、東京は相も変わらずクソッタレです。今日は雨音が気持ち良いよ、毎日雨でも良いのに。
読みましたあれ「赤い新撰」ってやつ、面白いけど、ちょっとる理ちゃんの事好き過ぎじゃない?いやわかるけどさ…。ダメだダメだってよくもまぁあんだけ楽しそうに書いたもんだね、ノリノリじゃないですか、まったく、まぁとにかくあまり無理しちゃいけませんよ。
あぁそうそう俳句を送ってくれてありがとう!
だがな虫っ!←なんちゃって
こんな事しちゃだめよ
春泥をコーヒー牛乳に溶かして
だめよ、ぬるぬるするから
遅れてきてぶっきらぼうに梨を食う
だめよ、前にも言ったじゃん、照れ隠しに梨を食べるのはダメだってさぁ
立ったまま苺を食べる。電車の中で食べる。
席空いたら座るんですよ、体弱いんだから。好きなのはわかるけどさ、スーパーで買ったやつだってちゃんと洗った方が良いですよ。
日盛りの洗濯機へ投身自殺
何やってんの!買ったばっかりだって言ってたじゃん、そういう事するからすぐ壊れるんですよ、いやわかるよ、ぐるぐるぐるーって、だめだめ。
投票用紙に彼氏の名前を書く日永
立候補してないでしょ、虫さんも大人なんだからやめなさいよ、そういう事。何ですかそのポンと置いたような「日永」は、まぁでも嫌いじゃないですよ、「永」ってよくよく見ると泳いでるみたいで可愛いね、関係ないけど
刑法すれすれの服をください
あ、写メで送ってくれたやつ見ましたよ、あれで金閣寺行くのは反対です、断固反対!
明日の予定を立てたがる男を殴る
なんですぐ手を出すの!前に言ったじゃないですか、男は繊細なんですよ、だめだめ
知らない草を食べる
こら!ぺっしなさい、ぺっ、もー、マヨネーズは関係ありません、だめです!
やさしいしわかりやすいけどつまんない
僕の句の事か!ぷんぷんですよ、ぷんぷん、まったく
パンツを履くのは娑婆で上手にやるためです
パンツぐらい素直に履いたらどうなんですか、冷えますよ
まぁとにかく虫さんの句を読むとなぜか元気が出ます、ありがと。虫さんはガムをクッチャクッチャやりながらホームランをぼかすか打つ助っ人バッターみたいに、これからもヒットなんか狙わなくて良いと思うよ。
僕は連休はほとんど仕事です、あぁツマラナイ。
良き休日を、また俳句待ってます。
そんじゃまたね、体に気を付けて
バーイ
麒麟
執筆者紹介
- 西村麒麟(にしむら・きりん)
1983年大阪市生まれ。古志同人。第一回石田波郷俳句新人賞受章。