第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞作 短歌「ベルリン」俳句 「Körper und Geist — ドイツの季語にて十句」自由詩「大きな火」 山崎 秀貴

第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞

短歌「ベルリン」 俳句「Körper und Geist —ドイツの季語で十句」 自由詩「大きな火」

山崎 秀貴 

短歌「ベルリン」

【二〇一三年 留学】

(Bahnhof Zoo)

エーミール降り立ちし駅の雑踏に掏摸らしき人見つけて愉し

寒空の闇さ重さよ市民らいま顔はヘーゲル生活は熊

(安いイタリア料理屋 Piccola Taormina)

赤ワイン似合える老女マリア氏に毎夜習うは粗野なる方言

(A–Z a–z ß)

大型書店満たせるもののほぼすべて五三文字から成るこわさ

【二〇一五年 就職】

槌鎌を腕に彫りたる移民局局員われの所得審査す

ブレジネフとホーネッカーの接吻のようにしている或る晩の部屋

トラバント待ちし日のこと語りたる上司の湿れる眼のエメラルド

(Oberbaumbrücke)

グラフィティの壁の連なり見はるかす わが言語野よ、まだ頑張れよ

【二〇二四年】

(John F. Kennedy)

自由人ゆえ日本に帰らざる 否、帰るともわれアイン・ベルリナー

あの頃の老女マリア氏の定席に座りて独りプッタネスカを

俳句「Körper und Geist —ドイツの季語で十句」

男体のトルソー二つカエサル忌

子羊の巨石に寄るやいなや去る

刺草やScheißeの摩擦音清し

上腕の思はぬ白さバーベキュー

アイス屋が削るシュプールが現はる

フェダーヴァイサー黒魔術癖になり

凧揚げの右手右耳電話中

晴れようが曇らうがはりねずみの鼻

ジャムが開く林檎つぶしし握力に

ポラリスやあしたも生きてゐる確信

【注】

Scheiße・卑罵語「シャイセ」

【季語】

カエサル忌・Todestag Cäsars・春・紀元前四四年三月一五日

子羊・Lamm・春・羊の出産期

刺草・Brennnessel・夏・ハイキングで注意 

バーベキュー・Grillen・夏・公園でもベランダでも

アイス屋・Eisladen・夏・多くは当季のみ営業・ショーケースに二〇種ほど

フェダーヴァイサー・Federweißer・秋・発酵途中の葡萄酒を飲む・羽根の白さの意

凧揚げ・Drachen steigen lassen・秋・風の強い当季に盛ん

はりねずみ・Igel・秋・冬眠の準備に勤しむ

ジャムを開ける・eingemachtes Obst öffnen・冬・作るのが秋で開けるのが当季 

ポラリス・Polarstern・冬・極北や長い夜のイメージから

自由詩「大きな火」

大河の岸に大きな火が燃えている
(炎ではなく火とよぶ 純粋なものであるから)
人間の背丈を十連ねた高さの火

これほどの火ともなれば
四方に広がるマッスも大きいが
わたしの立っているところからは
薄い膜のように見える

身体を縮ませたと思えば天に大きく伸びあがり
次の瞬間にはまた屈む

伸びをすれば膜の一部が剥がれて天へ立ち
ああ
飛び立った膜のかけらはもう 
一瞬で全く
小さな粉になってしまった

小さな粉のほとんどはまもなく見えなくなるが
中には十メートルか二十メートルか五十メートルか
旅をするものもある

これら有機的な運動が繰り返されるのを飽きるまで見て
(わたしは現代人だから飽きてしまう)
おなじように(おそらく)飽きてきた恋人と
帰路に就いた

グーグル・マップが最短距離だと云う知らない一本径を行くと
やがて目の前に灯台があらわれた
人間の背丈を二十連ねた高さの灯台
そして

一条の光が

この地表と並行にまっすぐ伸びた
わたしたちの立っている方角へ 
わたしたちが歩いてきた上を照らして

——大きな火はまだ燃えているだろうか

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