苦しみつつも(折句十三首) 堀田季何
知恵袋
ちはやぶる円周率を復唱す苦しみつつも六十位まで
土踏まず
爪先で着地するにも太腿を曲げてゐたれば滑らずにすむ
猫被り
根暗なる子供が突如かぶき者ぶつて集団リンチに遭ふ日
鳥兜。石田比呂志讃
友がみな立派に見えて感歎はふと漏れにけり毒づくさなか
ソクラテス
智慧(ソフィア)なき暗闇のなか角灯(ランタン)を手から離ししスコラ哲学
西アジア
ニルヴァーナの真実まではあと少ししかしその先あと限りなし
リクエスト
陸路経て空路で着きしエスカルゴ清しきまでに凍結しをり
多国籍。石川美南に献ぐる五首
タイ人のコックが遠いクウェートで性転換を決めこむ話
旅先で昂奮剤を喰はされて性に目覚めた奇怪な話
大量のコリアンダーを食つたのち背が伸びてきた奇蹟の話
台湾の〈香菜炒め食ひ倒れ選手権〉新記録の話
食べすぎた香辛料に苦しんで咳きこむ偽の貴族の話
駱駝隊
ラマダーンを苦しみつつも断食す黄昏までは市庭の角(すみ)で
作者紹介
中部短歌会同人。中部短歌会新人賞。第二回石川啄木賞(短歌部門)。