応答せよ、海や空  加藤英彦

応答せよ、海や空  加藤英彦
応答せよ、海や空  加藤英彦


応答せよ、海や空  加藤英彦

水ぶくれのミッキーマウスゆうぐれの突堤にうち寄せられては返す 

陽のにおい闇の匂いもほどほどに蓄えて稲わらのかたまり

身のうちに積もる雪かと宵々をしずかにふとる体内被曝

微粒子セシウムがゆっくり雨に溶けはじむ朝 応答をせよ、海や空

声のみが耳にのこれりたましいはいずこに流れゆきしか知らず     

母走る、雪におう子を抱きて母はしる 背の濁流をふりきり

あのひとが還ってくる夜 岸をあらう波音のくらさに耳すます

靄うすくつつめるあした情報は隠されて野菜たちの被曝は

おきざりの牛、馬、鶏の鳴く声が聞こえぬか! 否、すでに聞こえぬ   

白マスクの百人の児らが帰りくる百年のちの空から村へ

作者紹介

  • 加藤英彦(かとう・ひでひこ)
1954年生まれ。同人誌「Es」編集・発行人。

2006年、第一歌集『スサノオの泣き虫』(ながらみ書房)出版。

2007年、同歌集により第13回日本歌人クラブ新人賞受賞。

日本文藝家協会会員。現代歌人協会会員。日本歌人クラブ会員。

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