応答せよ、海や空 加藤英彦
水ぶくれのミッキーマウスゆうぐれの突堤にうち寄せられては返す
陽のにおい闇の匂いもほどほどに蓄えて稲わらのかたまり
身のうちに積もる雪かと宵々をしずかにふとる体内被曝
声のみが耳にのこれりたましいはいずこに流れゆきしか知らず
母走る、雪におう子を抱きて母はしる 背の濁流をふりきり
あのひとが還ってくる夜 岸をあらう波音のくらさに耳すます
靄うすくつつめるあした情報は隠されて野菜たちの被曝は
おきざりの牛、馬、鶏の鳴く声が聞こえぬか! 否、すでに聞こえぬ
白マスクの百人の児らが帰りくる百年のちの空から村へ
作者紹介
- 加藤英彦(かとう・ひでひこ)
2006年、第一歌集『スサノオの泣き虫』(ながらみ書房)出版。
2007年、同歌集により第13回日本歌人クラブ新人賞受賞。
日本文藝家協会会員。現代歌人協会会員。日本歌人クラブ会員。