天井譚2 その3 森川雅美
きのう死んでいるあした死んでいる軌跡をゆるやかに描きながら飛んでいく、
鳥の向かう方角についての思考をつづけ見ていた風景はもはやここに届かないと、
毎時ふりつづける落差に躓きながら掌に残る欠片をもう一度にぎりなおす、
留まるかたちが流れでようとする時により深く沈んでいく片腕だけが見出され、
通り過ぎるもはや影ですらない傾きかけた背中がとおくに揺らぐ、
バランスは目の前の推論だからよろめくための日記を記述しつつ、
呪文が欲しい呪文が欲しい呪文が欲しい不明になるもなお記憶され追跡される、
うちに語ることすら許されなくなり神経に直接ふれる角度は足音からは遠く、
下腹から少しずつ脂肪に堆積するためにきのう死んでいるあした死んでいる、
鼓動がまだかすかに灯りつづけるならぼろぼろになった右足がなおも土を踏み、
誰かの首筋から生えいずる光は見ることの裏切りであるとしても果てに、
背後を照らすよわった陽光はあるいくつかの地図を書き直す手の動き、
破壊するさらに大きな手に掴み取られ復命されるままに、
幼い者から死んでいきます幼い者から死んでいきます、
落差とはもはやかかとの窪みのかゆみ排泄する日に更新される情報まで、
欠乏する息継ぎにやや斜めに口つきだしきのう死んでいるあした死んでいる、
余剰だけが皮膚にリアルに伝わり夕暮れの街角は末期の目だから、
ぎりぎりに擦りへった堆積がほしいと括られる手首足首がはみだしあふれる、
ぶら下がるままのいびつな禅譲に問われ妨害するために当面の人息絶え、
いつわりの帰参はちりぢりに啄ばまれ忘却の果てに陽は沈みかけ暴落する、
呪文が欲しい呪文が欲しい呪文が欲しい靴底には腫れる気泡が擦れ、
嘘ばかりが暗くなる道端に響きわたり曝されるままに生まれたって眼は見える、
やや横殴りの邂逅に引きのばされ手の内は俯きかければ慣れるよりも早く、
通り過ぎる足首が留まるまえに埋もれていきもっともっと暗くなる、