七十八番 自然を詠む、人間を詠む(十一)
左勝
手袋を嵌めて鴉の目がうごく 鴇田智哉
右
ふるへる電線冬ざれの野をよぎる 鴇田智哉
アンケートでは、鴇田氏と榮猿丸氏、関悦史氏の三人によるSSTの合作実験のことが回想されています。震災のことは関係がないようでいて、しっかり関係づけられています。韜晦といえばみごとな韜晦ぶりの、食えない回答ぶりがとても面白いです。考えてみたら彼らの合作実験の発表先は「詩客」。まだ震災の余韻も残る昨春、彼らをせっついて作品を出して貰ったのでした。なんだか遠い昔のようです。鴇田さんは、「①この一年で心に残った一句」に、その折の
芽キャベツのうっらうっらと踊りくる
を挙げていて、これは確かに実験作三十句中の白眉であったと思います。
左句は、彌榮浩樹氏あたりが喜びそうな詠み口です。私も喜ばないことはありません。一方の右句はずいぶんと素直な句です。まあまあだけど、やっぱり「ふるへる」と「冬ざれ」はつきすぎではないでしょうか。左句の気持ちの悪い、生理的な実在感にはかなりインパクトがあります。問題なく左勝でしょう。
季語 左=手袋(冬)/右=冬ざれ(冬)
作者紹介
- 鴇田智哉(ときた・ともや)
一九六九年生まれ。「雲」所属。句集に『こゑふたつ』。