五十五番 獅子頭
左持
獅子頭はづし太宰を読んでゐる 山田露結
右
畳みたる胴へと据ゑぬ獅子頭 大塚凱
右句は、見たとおりをきちんと言葉に乗せきった写生句。端然としたたたずまいが、一年のはじまりにいかにもふさわしい。対照的に左句は、よくもわるくも曖昧で感覚的な句である。まず「獅子頭」が実体なのか、比喩なのかが落ち着かない。仮に実体だとして、太宰の小説を読んでいるのがどういう状況なのかはっきりしない。獅子舞を一日に何度か踊る合間の休憩時間のスナップかもしれないし、あるいは一日の演技を終えて以降のことなのかもしれない。後者であればじつは、比喩と実体の区別にもあまり意味はなくなる。さっきまで獅子頭をつけて獅子舞を踊っていた人間が今は太宰治に読み耽っている、その落差になんとなくの面白みを感じよという、いかにも今風な作りの句なのであろう。松はとれてもまだ正月なので持。
季語 左右とも=獅子舞(新年)
作者紹介
- 山田露結(やまだ・ろけつ)
一九六七年生まれ。「銀化」同人。掲句は、『俳コレ』(邑書林 二〇一一年)所収の「夢助」百句より。
- 大塚凱(おおつか・?)
一九九五年生まれ。掲句は、「俳句」二〇一二年一月号掲載の石田波郷新人賞準賞受賞作「はなびらのやうに」二十句より。