戦後俳句を読む (2 – 1) ―「私の戦後感銘句3句(2)」― 上田五千石の句 / しなだしん

「星」の句からみる五千石の真実(2)

木枯に星の布石はぴしぴしと   五千石『田園』(昭32年作)

 第1回で触れた「ゆびさして」の句から一年後、この句は生まれている。

この句について五千石は自註(*1)で、

冬の夜空は星の繁華街になる。名のある星座は競って店開きする。

と記している。

 この句は「氷海」の昭和33年3月号に初出する。ただ、句集『田園』に掲載されたそれとは違っているのである。

木枯に星の布告はぴしぴしと   五千石

 違っているのは一文字。「告」と「石」である。ただその意味は大きく違っていると言わざるを得ない。「布告」は「(政府から)一般に知らせること、告げること」。一方「布石」は「囲碁で作戦を立てて要所に石を配すること、将来のために用意すること」である。

 句集『田園』でこの句を読んだとき、冬の空を碁盤に見立てて、星を碁石のように「ぴしぴし」と置く、そんな風に鑑賞して、冬の厳しい寒さが感じられ、「布石」という言葉がとても生きていると思ったのだが、原作で五千石が意図していたところは違ったようだ。

 原作の「布告」を信じて読むと、木枯が吹いて星々が一斉に光りを増し、主張を始めた――、そんな風に読める。それもひとつの星の在りようを詠っているとは思うが…。ちなみに自註のコメントは、原作の意図に近いような気が私にはする。

       ◆

 この句がいつ改められたのか、調べるすべがない。(いや五千石のことだからどこかに書かれているものがあるのかもしれないが)いずれにしても最終的には「布石」として残されたわけで、それは「布告」よりも「布石」が、五千石の心中でも優ったからに他ならないだろう。

 それにしても、一字の違いの大きさを思い知らされた作品である。


*1 『上田五千石句集』自註現代俳句シリーズⅠ期(15)」 俳人協会刊

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