さみだれの印象 亜久津歩
太陽の 瞳孔が ひらいたような五月闇
火曜日は 木馬のように 廻るのに
濡らすたび燻る筆はどうしたら燃やせるごみとなるのでしょうか
見せあうだけの慰みめいた 昏い悦びにおう黒南風
ふれられぬままふられるのなら 曖昧なほどあまい戯れ
単調なコントラストをなか指はあわい夜明けに塗りかえていく
キャンバスに埋葬される素描のように
あなたとの恋などなかったことのようにふるまうことが愛でした
白靴をわざと汚して雨あがり きよいまま蛍の沈む水たまり
分娩室窓曇りたる霜の朝
カーテンを透くほの白さは
切りぬかれる 赤んぼうの肌色に
なに一つゆるせないまま
よくがんばったね という
ばけつをひっくり返したような陽の下を
終わったんだ 終わったんだと歩いた
強姦のような青空だった
産声が兄に似ている冬麗
こんなに小さなくちびるに
わらいかたをふくんできたの
こぶしにもえくぼをもつように
摑んでも離してもその手でありますように
きれいにふさがった傷のなかに
つめたい石があり
もう磨くことができない
しあわせになろうと、なった
ためらいなく浴びるべきひかりさえ
こぼしてしまう指を樹と呼んでくれる
ゆるされてごめん
春の泥引きづりすすむ乳母車
影から芽吹くように
あなたを生み、わたしは産まれた
風光る子の口許に乳の跡
抱き上げるとき
抱きしめられているぬくもり
ガーゼハンカチ洗う洗う春の昼