エマージェンシー 山川創
あの街にはまだ大砲があって
あんたらが記憶を撃ち出すのを待っているんだよ
もうここはすっかり領地 あそびたい人がひとやま余っているね
だけど (いらっしゃいませー)
そうだ (おひとりさまですか)
すべて売られていくことを肯定するために生まれてきた
おしまいのページが塗りたくられている本をいつまで読み返すんだ
硝子でつくられたロケットが着陸する
無精卵から生まれる命が街を蹂躙する
いずれここが荷台であったことにはたと気づくのだろう
道を歩き道を走ることで実感を得ることだってできるんだよ
それとも もうとっくに
乾かされてしまったあとだったのか
宇宙へと視線を向けているふりをしながら食べる非常食糧
私の知らないスラングで参宮線は壊されていく
「心を騒がせるな。神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい」
車掌はそう言ってピアノを弾き始めた
ピアノの音は雨の音ではないことをおそらく彼だけが知っている
無防備であればあるほど鳴く仔馬
だから新しいニュースが入ったらいつでも読んでくれて構わないよ