第7回詩歌トライアスロン・詩歌トライアスロン(三詩型鼎立)受賞作/自由詩「Tacet」他   未補

Tacet
【第7回詩歌トライアスロン・詩歌トライアスロン(三詩型鼎立)受賞作】

自由詩「Tacet」他   未補

短歌

音立ててページを捲るさみどりの喉を真昼の鳥に晒して
まばたきのなかのかもめを数えれば日付はひかりながら擦り減る
熟れている桃にくちびるつけながら名前に似合うわたしを過ごす
まどろみに似た波音をひとつ吐く金魚、誰にも飼われていない
カナリアは雨のつがいとして生まれさえずりさえも自動演奏
記憶よりゆっくりまわる観覧車だれかの庭にコスモスが咲く
あかるみのなかで食べさせあう雪は身体によいというおまじない
恋人は夕方帰る川沿いの白木蓮を心臓にして
みずうみに手を絡ませてポラリスの座標にいつも梨が置かれる
花が花と呼ばれる前に咲くような白帆は地図の折り目をたどる

俳句

朝凪のなかの付点の翻る
かもめに雨 ぬりえのようにせまい雨
水蜘蛛を孕むまぶしい仮眠かな
ふらここのねじれ祝日またうごく
梨に声あればアルトのすこし上
横顔は衛星に似て駅を待つ
一重の薔薇閉じ込めて白い暗幕
深爪をして冬蝶とつがい合う
薄くあわく砂漠脱ぎ置くひばりかな
産声のように帆船の咲き残る

自由詩

Tacet

たびたびやってくる果ては
三日に一度吸う空気に似ている
うるおう懐かしさと
かわいた既視感に
玄関と駅の区別さえつかない
「海が欲しかった?」
「いいえ、汽車になりたかった」
写真立てのなかでほほえむ名画たちは
伏目がちに今朝を見送るけれど
さいしょから化石だったような
たよりある腕を交わすのなら
言葉以前はすべて雪だ

誰のためでもなく掛ける鍵は
無機質を通り越して
抒情的にピリオド
遮光カーテンに身をやつした人魚が
妬ましくてしかたない
「陸になりたかった?」
「いいえ、船が欲しかった」
朝日はいつも満席で
あぶれるのは決まって椋鳥
架空というまえがきを付しても
一拍置きに流す涙さえゆるされず
ふぞろいな声だけが夜へ行く

ようやく去ってゆく電話ごしの拍手は
かたちのない紙吹雪
レンタル品のシュレッダーは
さめざめと溢れてしまう
花屋の消息さえ巻き添えにして
「空に行きたかった?」
「そう、鳥を飼いたかった」
水差しの代わりに
てのひらを差し出す
誰に乞われるでもなく
かなしみが指す次のかなしみは
ふかみどりいろに濁る犀の目と等しい

やすやすと
引き受けてしまった港を飾るための製氷器(のように朝がくる)
ひとつふたつと
まばたきを見つけるたびに滅びる汀(のように昼がめぐる)
なすすべもなく
飛込競技にかなしみを問う恒星(のように夜が終わる)

わたしたちが「果て」と呼ぶ時間には
もちろんドアノブが無い
だからゼロからゼロまでを数えるルビのない身体になって
何度もあなたをやりなおす
陽がのぼる前に呼吸を思い出せば
わたしはわたしに辿り着いてしまう

有意義で、あたらしい永遠を、まだ

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