第7回詩歌トライアスロン三詩型融合候補作
Juicy Drive 未捕
ほんの気まぐれに露店の鳩を買った
もちろんオレンジは抱き合わせでついてくる
「オレンジを三日食べ続けた鳩は日付になって死にましたとさ」
ラジオが流す歌は時報と区別がつかないほど乾いている
薄いカーブに合わせてハンドルを西に切った
カーナビの指示で海月の歯を磨く
助手席の蛍はなにも兆さない
夜を写生しながら走り続ける国道は
結末だけのおとぎ話を欲しがる羊で溢れていた
かなしみが声を先行して肺よりも先に海に溺れる
手触りのなかに浮かんでくる柘榴
賽の目の裏に無月の正しいひかり
バックミラーごしに掴む林檎は
象のまぶたのように頼りなく青い
「盗まれた林檎を食べた象たちは夜明けを待たず死にましたとさ」
それきりラジオは雨を吐いた
朝に割る体温計に似た
とてもぬるい雨を
投げ捨てたキーは誰の棺にもぴったり合うのに
東の空は今日も月曜日が欠けている
心音をまっさきにクラクションに喩えたのは
花屋に飼われた猿だったか
さっきからボンネットで飛び跳ねている魚たちに
片っ端から消印を押せたらいいのに
かたちあるものの名を
いくら波に焦がしても
わたしの車は
停まっている
いつまでも
孤島のように
停まっている
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