冬の日の雲   田中教子

冬の日の雲   田中教子

たてがみが風に吹かれてゐる獅子の眠りのなかの遠きふるさと

キリンより優しい目をしてゐる人に見られてゐたいひとときのある

もてあそぶなどはいちどもなき我のおもひをしるや栴檀の樹は

別れてはすぐに会ひたくなる人よ雨後にみえたる虹の足首

男色の話をはじめし青年の瞳にのなかに雪がながれる

だまされて死にし女のものがたり笑ひつついふ青年なりき

からみあふ人の視線のかたはらで「いろは」の文字を細く書きゐし

「ぞぞ毛が立つ」といはれしことがいつまでも胸にささりて新月となる

人間の心をわからぬ人なりとはなれゆきし冬の日の雲

君のくる午後なり魚は銀色の背びれをもちて空をとびをり

作者紹介

  • 田中教子(たなか・のりこ)

1967年生まれ
アララギ派短歌会
2008年第三回中城ふみ子賞受賞
2008年第一歌集『空の扉』(ながらみ書房)
2010年第二歌集『乳房雲』(短歌研究社)
2011年日本歌人クラブ近畿ブロック優良歌集『乳房雲』

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