第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載 鉄塔譚 何村 俊秋

第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
鉄塔譚
何村 俊秋

無職の水曜は鉄塔の並びがかっこいい
たましいみたいな石も拾った
一番イキの良い鉄塔を引っこ
抜いて一緒に暮らす(ペット禁止だ
が今回は私が飼われることだ
ゆめの なかで走るような粘性の 時のながれが
暮らしのあちら、こちらに襞を潜めている
冷蔵庫の息づき
隣室の暗がり
鉄塔と向かい合って座る
言葉なく満ち足りる
ありったけに命している

鉄塔は楽譜に居心地を見出したらしい
さまざまな曲のスコアブックの中に
巨体をすっぽり入れていることがある
一方の私は風呂に入る
楽譜はひんやり気持ちいいらしい
ただ私に音楽の心得がないばかりに
奏でられると鉄塔は困ったような、
忘れていくような=思い出していくような
航空障害灯の赤い眼(?)を
ぺかぺか点滅させていた

テッ・トー・タン
テッ・トー・タン
──それは音楽的な日々
ぺかぺか ぺかぺか

鉄塔は肉を食う
でも卵は嫌い
パックの中に並んでいるためだ
いつも予感だけがあった
割れそうな予感が
卵そのもの
より先に
割れてしまって
空っぽの卵は白身と黄身でべしゃべしゃだ
科学的な獣の匂い
倫理だ
当の鉄塔はと言えば
生まれて初めて怒ろうとするがまだ生まれていない
卵は鉄塔を宿していたかもしれない
私はたいへんなことをしてしまったが
気づけば卵の中で風呂に入っていた
(温泉卵である!)

暮らすとは見果てぬ内側を持つことだ
無表情な壁に世界を区切られて
身体を脈の形に折りたたむ
何本もの血管のほそい震えと
おしくらまんじゅうの臓器たち
にゃるにゃるした被膜で包まれて
肺は冷たい壁として濡れているのだ
ひかりの射さない美しい部屋
時に鉄塔は
肩に私を乗せてくれた
鉄塔と暮らしながら
鉄塔に暮らした
鉄塔からは
鉄塔が、見えその向こうにも、
鉄塔が、
その向こうにも、
鉄塔が、新たな向こうを生み
向こうが新たな鉄塔を生む
それは見果てぬ外側なのだった
泣いた
私の部屋に
青空が広がっていた

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