海 河邉由紀恵
すでにはあはあとまどろむだけの女の
やせた髪をひろげてむこうの世界をす
かしてみてもなにもないくらやみだけ
どそのおくのとおくのほうにゆれるく
らげみずいかが浮いている海がひろが
っているのがみえるやつれた女の髪の
すきまから海はすこしずつこちらへち
かづいてくる海がそばにくるのがいい
ことなのかどうかわからないけれどわ
たしはここで女の髪をとくしかない女
のほそい髪とかみのあいだをとよとよ
と海のみずがぬけてゆくぬうるいなる
いみずにゆれる女の髪とかみのあいだ
からちいさな赤い櫛がとろりぬけてし
ずんでゆく下の方へみえないけれどあ
あだん流の海のみずのやわらかさにさ
そわれて女の髪はたっぷりとみずをふ
くんで海の藻のようにゆれてながれる
なまあたたかい海のみずのここちよさ
女のかたやうなじちぶさうでやはらや
あしや女のうちまたのしづもりのあい
だをぬうるいなるい海のみずがひたし
てゆくもう女はわたしからはなれてい
るどうしようもなくとおくゆれるくら
げみずいかが浮いているむこうのほう