
あっぷ☆さいど☆だうん
沼谷香澄
民族の窓のガラスを割らないで守宮の腹をおさえるゲーム
猫の悪 猫の善 猫の精神 「我が目のうちの白猫に会え」
目は大きく丸く、たんすの上から私を見下ろしているのだが、頭頂部を毛布に押し付けて顎を上にしていた。その姿勢で丸い目を丸く見開いて真っ直ぐわたしを見る。なんでひっくりかえってんの? と聞くのだが、
「これがさかさまにみえるのか?」
と冷静な目で逆に尋ねられる。
「ひっくりかえっているのはどちらかな」
目を細めながらもわたしの顔から目を放さずに、話しかけてくる。
そうなの?
「のなうそ」
口を少し動かしてねこはそうつぶやいて、目を閉じた。
十三個多いとかいう椎骨を そうだよ、どう使っても自由だ
爪が出て爪が刺さって抜けなくて鳴けば戻ると思う平和は
『行動規範をヒトに預けることは健康上のぞましくありません。しかし、一般に考えられているように、ねことヒトとは同じ空間を共有しながら違う次元を生きているわけではありません。いくら待ってもいくら見つめてもヒトが反応しないことは普通にありますが、だからといってヒトがそのとき死んだ時間を生きていると考えるのは早計にすぎるのです。ねこもヒトも、いないひとのことを思うことはできますが、会ったことのないひとの夢を見ることはありません。蝉を食べたことがないので、蝉は嫌いだから食べたくないなあと思っているかと言うとそういうことはなくて、ヒトはねこの近づかない窓を持っていて、わたしたちがよそごとに気を取られている間に静かに席を外しているのです。』
一時間後。
前足の上に顎を載せてふつうに目を閉じている猫にそっと近寄って見ていたら、やがて目を開けて私に見られているのに気が付いた。
「や、これは」
頭を下にして姿勢を整えようとするが前足が落ち着かない。突き出したまま空を掻き、指を伸ばしたり縮めたりしている。
「や、これは」
へんなやつ、と言って腹を撫でようとしたら、手首に両腕を巻き付けられて、肘を噛まれた。
おとなしくまっててねって日になんど言われても言われてもクマゼミ