第9回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第1回 夏盗人 早月 くら

第9回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第1回
夏盗人
早月 くら

遠雷
と聞くとなにか悪い報せが浮かぶでしょう?
という声がして
浅く頷く
六月
けれどあらゆる
現象に意味はないから祝福と信じても良く、夕立を行く

ふかぶかと空を隠して誠実な傘 見えるもの 見たいもの 淵

削ぎ落とす甘夏の果皮苦いなら糖をまぶせば良いと言われて

mistype 2823年の豪雨のことを記すゆびさき

手のひらが手の裏なんて思えない 生命線のながいながい弧

夜という言葉が単位であることに救われてしまって夏至にいる


ii!
!!i!ii!!i
i!!i!i!i
ii!!iii!!!!i!
!!!i!i!!i!iii!!i!ii!

ねむりに
そのつもりはなかった眠りにつく前にかけていた
音楽
は止んで代わりに
雨が
街の輪郭を響かせている
それを
眠りのなかでも知っていたような気がして
脳の
うすい膜のような記憶を
掬いあげても
青梅雨の名に手の甲でふれるのみ

いつだろう
雨降りの夢の秘密を教わったのは

―― 合鍵として花氷渡される

夢のなかで
ほんものの雨上がりに立ち会うとき
硝子のように透ける花を一輪、手渡されるという
それは
とても軽く
とても脆く
ひとはそれを失うことをおそれて
そっと飲み込むという
花は溶け、静脈をめぐり
躰のどこかに降りつもる

いま雨は
煙のように白く
そのうえ此処はおそらく
現実
とあいまいに定義された世界だから
雨が止まない

その余白のような歳月にもっともふさわしい
たとえば、火の話をしよう
あなたはそう言うのだろう

強い雨音と
散りゆく花火の音は似ている
すべては重力による支配
あるいは分け隔てない恩寵にもとづいていて

線香花火をいちどに灯すことは
iiに似ている

何に?

慈悲に

意味になりかけている
樹々に

きみに渡さなかった
未知という重さに濡れて夏の蝶

そうやって
日々に
機微に
希死に
じきに慣れてしまって
息と
四季のあわいに
驟雨  そして湧き立つ夕景はどことなくあこがれに似ていた

あなただけの秩序はあって磨りガラス越しに蛍のような煙草火

また狂えない夏がきて浴槽に座りこむ、ぬるい桃食べながら

除光液と名付けたひとの眼を貰いそれからの光まみれの現世

真夏日の果てない錯視受け取った水をあなたの素描と思う

翳りゆく窓を背にしてわたしたち言葉のはじまりを見せあった

どうかうつくしい干渉を そのために手にした声と花なのだから

うすいからえんえんと飲むハイボール季節を盗むなら八月を

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