第9回詩歌トライアスロン三詩型融合部門候補作
さいと恩寵
村元 葉
朧げな陽が差す都市で
さきほどすれ違った女は三回前のわたし
今捕まった男は七回後のわたし
三十面の賽が示している
どれもわたしだと
当事者でないことなど一つもないはずが
隔てられ遮られあらゆる報せは遠く
頭に響く糾弾によって
実存に覚える罪の意識
痛みから逃れるべく
張り巡らされ囲まれている
どこへ流れゆくかしれないパイプに
耳を押し当てれば歌は聞こえる
あきざーもごー示、どざーけ望ごーもざーれぬものがごー寵とあり
調べは絶え絶えで
再び耳を欹
て聞き入る
ざーらめも啓ごー、どれだざーぞんごー得らざーものが恩ごーとざー
通り過ぎるひとりびとりが奇矯なものを見る目を
瞬間、逸らす
意志も意図もなく出目の違いに過ぎないのに
ざーごーもざーごーれざーごーんでもざーれぬものがざーごーとあり
痛みは収まらず
酷くなるばかりの騒音にその場を離れ
頭の靄を払いながら家路につく
身に余る幸福を享けるもの
耐え難い不幸に打ち拉がれるもの
その差異が生まれたのはそれぞれのせいではない、はず
下水が濾過され川を経由しその名を海へと変えるころ
あなたの下でやわらぐ痛み
安らかに眠る幸福で
溢れるわたしに囁く声が
諦めも啓示、どれだけ望んでも得られぬものが恩寵とあり
届いた