


指紋
草野 理恵子
(インク)
指になって歩く
何指だろう
指になってしまうと自分が何指かはわからないものの
指であるという明らかな気持ちが与えられる
指紋にインクが流されますます自分を強く感じる
もう感じることだけでいいのだ
輪郭だけの家を被りどこまでも進む
おもしろいことに指になっても
腕があり手があり指がある
指の私
鳥につつかれ虫になめられ模様のような道を進む
ますます冷え性になり
指紋の文様が変わる
変わるのかな うつむき瞼に雪が溜まる
溜まるのかな?
上を向くと溶けた雪が指紋を伝う
味はシロップの味
十六グラムもないけど
*
指になり歩けば私は何の指? 指紋にインク流され冷え性
(支払い)
また親指を被って歩いた
指紋が渦を描くことなく流れていて心もとなかった
私の指紋はこんな流れだったのか
今更な気持ちであるが指紋なんて見たことがなかった
被ってみて内側から見てやっと指紋の気持ちがわかる
早い夏の一日
まだ赤い靴を履いていたころだ
川のように砂が流れる道沿いに饅頭屋があった
同じ模様の饅頭はないよとおじさんが呟き
私はよく見て渦を巻かない蹄のような饅頭を買った
指紋でいいよというので指紋を押した
私は砂の道が川になり川辺に青い花が咲くまでそこにいて
そこで饅頭を食べた
「永遠の世界」という絵を見たことがある
こんな絵だった気がしながら
「まんじゅう 買いに 来ました」
と区切って言う客が最近多い
*
親指を被って歩けば流れ紋 支払い指紋で心もとない
(おばけの指紋)
おばけの指紋っていう鳥がいるんだ
彼はそう言って小さな骨を持ち帰った
彼の指を見た
小さな骨と彼の指が結ばれ取れなくなっていた
どうしたの?
失くさないように縛った
彼はそのまま生活をした
邪魔じゃないの?
邪魔じゃない
うっ血しないの?
うっ血している
彼の指の先は縛った場所から腐り始めていた
早く解いて
自然と糸は解け
骨の小鳥は彼の指を食べた
残りの骨を探しに行くね
小鳥を胸に入れて彼はドアを閉めた
調べてもおばけの指紋なんて鳥はいなかった
私の指を噛めば皮が剝がれ
鳥のように舞った
*
骨と指結ばれ指は腐れ落ち小鳥が食べると指紋のおばけ