連載第5回 邂逅 亜久津 歩

連載第5回
邂逅
亜久津 歩


繫がらない。音の痕跡、明日の残夜、香る鼓動、無記名の
再定義、不在の乱丁、雪の消息、二重拘束、痛覚、信仰、
蜃気楼、走馬灯、火葬と星、確かにゆるやかに、波は骨を
露わにして無辺を彫り、欲動の欠片が転がる街角、
信号機は、光を吐き出し続けて


置き忘れた荷物のような
飼えなかった猫のような
書きかけの遺書のような
養子にされた兄のような
押し殺した祈りのような


子どもらしく歌えぬまま
吃ったエンドロールのように
大人になった

戻りたい頃などない
鍵もかけずに泣く夜の
なんと自由であることか

こんなに明るい末路では
顔を上げるほかないだろう
ただ一つの後悔を
抱きしめて焼かれる日まで

魂が愛しているから
わたしが
この女を
幸福にすると決めたのだ

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