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幽闇霊(子)
田中 さとみ
幽闇霊(子)はペンでぐちゃぐちゃに落書きしたような黒い着物を着ていた
襟からのびる首の先には光に満たされた余白がどこまでも広がって顔がない
食事を与えようとお粥をスプーンで掬って口があるらしいところに差し出すとお粥はひらひら消えていく
「秩序あるものはいずれバラバラに無秩序の状態になるんだから。その逆は起こらないよ」
幽闇霊(子)とユノミは似ていると思った
依伴(ヨハン)は男の子なのに母親と姉が面白がってよく化粧をほどこし女物の服を着せられた
「ぼくは男の子なんだー!」と逃げるように隣家に住んでいたユノミの家に逃げ込むと匿ってくれた
ユノミは依伴を西瓜のように抱きしめる
胸のなかでじっとしていると秘めやかな香りに包まれ依伴はユノミの中に溺れて女の子になってしまいたいと思った
「大丈夫。キミは女の子なんだよ」とユノミは変なことを言うので不安になって顔を上げるとユノミは男に依伴は女の子になっていた
ユノミは精神感応能力者(テレパス)なのだと思った
幽闇霊(子)は黒い不気味な着物の袖から真っ白な紙のような手を平行に水平に動かして収まることのない語られずに黙していた声はどこまでも震えながら依伴の耳元に口づけするように囁かれ一瞬にすべてを包摂し鏡を見る必要がない
夢を見ていた
依伴は幽闇霊(子)を見つめ幽闇霊(子)は依伴を見つめている
鏡を見る必要がない 互いを見れば鏡となる
鏡で自分の姿を眺めているように手のひらを合わせ握りしめる
「わたしたち(ぼくたち)おんなじなんだ。かわいいー」
スカートを履いている依伴は幽闇霊(子)になりきって声音を可愛らしく変える
幽闇霊(子)は男の子のようにふるまっていた
悟性と構想力が紙の上で手を結び自由に踊るように鼻先を当てキスをすると形を与えられたふわふわのお地蔵さまのスクランブルエッグが拡散し鏡に映った鏡の中に「ぼく」と「わたし」がその鏡の中にまた「ぼく」と「わたし」が無限の枚数の鏡に「わたしたち(ぼくたち)」は映り互いに手を合わせていたから鏡を見る必要などない