ぼろんじ 奥田亡羊
徒然草百十五段より。ぼろんじは非僧非俗の乞食。世を捨てたるに
似て我執深く、仏道を願うに似て偸盗残殺を業となす。梵字、ぼろ
ぼろ、ぼろとも言う。宿河原は神奈川県の地名。
宿河原に果たし合いせしぼろんじの名はやさしかり いろをし、しら梵字
親のつけし名にあらざらん名乗り合いともに死にけるふたりぼろんじ
師のかたきを尋ね来たるはしら梵字ねんぶつ春の風に濡れおり
蠢ける群の奥よりふかぶかと「おう」と
いくたりを殺めて永き
はるばると歩み来たれるぼろんじを待ちいしごとく座して迎うる
心ゆくばかり貫き合いたりと徒然草は最期を伝う
世を捨てて暗く我執を生きいしがやすやす死んで見せるぼろぼろ
ぼろんじの子はぼろんじにあらざればウルトラマンとなってたたかう
山越しにわれを見ている目と合いて目を逸らしたり日々に倦みつつ
作者紹介
- 奥田亡羊(おくだ・ぼうよう)
一九六七(昭和四二)年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。二〇〇五年、「麦と砲弾」で「第四十八回短歌研究新人賞」を受賞。〇七年、歌集『亡羊』を出版。〇八年、同歌集により「第五十二回現代歌人協会賞受賞」を受賞。フリーランスのディレクターとしてTV番組等、映像作品の制作も手がける。