吉野・高野山行
目に見えぬ桜浴ぶれば南朝の王の儚き邪気をも浴びぬ
檄文の一文字宙でまねぶなら吉野の院の硯は誘ふ
一拍の永き添水の音乾き捏造されたるものの愛しき
吉野郡天川村のキャンプ場未明に近づく鹿のありけり
南朝の家臣を祖先に持つと言ふ爺は時々鷹揚になる
葛餅を買ひて釣り銭受け取れば乾坤通宝一枚混じりき
幼子は柿の葉寿司の柿の葉を一枚一枚捲りて調べぬ
空海を先導したる黒き犬白き犬とは違ふ犬ならむ
奥の院土産屋の犬は偉大なる空虚に向けて欠伸をすめり
高野山精進料理の蒟蒻の刺身を略してさしこんと呼ぶ