夜明け 渡辺めぐみ
判じ絵を解かなくても
風が落ちてゆく先を見ていれば
どこへ飛んでゆけばよいかわかる
穿たれた世界に生きてきたものの
それは生きる知恵だ
そのようにして出てゆくものと
帰ってくるものが
交わる刹那に
切り刻まれるような痛みが走る
出てゆくものにも帰ってくるものにも……
いとしいことは優しいこと
優しいことは悲しいこと
悲しいことは忘れられない
だから 羽を剣にして立つ
風が落ちてゆく先に見聞きしたことは
口にしない
春と冬の間に
真理の卵を育て
じっと孵化を待つ
砦の下の死骸を見ないこと
それさえ守れば生きてゆける
折り折りに飛んでは見飛んでは見た錦の地獄絵を
脳裏に重ねるごとに声が高くなる
その不思議を夜明けがさらいにやって来る
餌食にはならない
まだ秋だ