詩客 十首 盛田志保子
信号機を食べてしまった動物の顔をしている秋雨の街
夢に続く感情ならばいとしくて仲良くなれぬ人を見送る
かさこそと動くすべてのかわきものを潤す秋の長い雨降る
秋風に転がるバケツ目を閉じて追いかける朝も夜もない空
目が回るあなたがあなたであることに残像みたいなスナップ写真
どうでもいいものはやさしく返すから返却ポストなんて要らない
もうずっと怒っているのかもしれず水面ふかく潜る水鳥
家を持つ者の強さと優しさで浅川マキの死を語り合う
並んでいる字面は手相ぱっと見て占うそんな往復書簡
雪の上にでんぐりがえしついてくるものは輝きながら剥がれる
作者紹介
- 盛田志保子(もりた・しほこ)
1977年岩手県生まれ。未来短歌会所属。2000年短歌研究臨時増刊号「うたう」作品賞。
第一歌集『木曜日』(Book-Park)。2004年未来年間賞。著書『五月金曜日』(晶文社)。