亀 鈴木啓之
川原で拾った亀の名前が
「本当の生活」だったなんて知るんじゃなかった
今日は屋根を修理しようと思っていた
だから朝から酒を飲むことにした
住みなれた部屋から外をのぞき見ることを禁止したのは
女が出て行った翌日の昼食後だった
窓という窓はそれよりも前からふさがれていたのだから
「外から中をうかがい知ることもできない」って
大家が言っていた
その通りなんだろう
便所の中で捕らえたゴキブリを
嘘だと思いたい寝起きに
つまり私の朝はもう嘘にまみれて
いたる所が痛みかけている明日になるのだから
懇願するように
哀願するように
今はただ亀に与えるミミズの重さが足りていないことを
恥じ入るように引越しの支度を始める
荷物は全て置いていくことにする
「本当の生活」だって
もちろん