猫の放恣 松村由利子

  • 投稿日:2013年03月29日
  • カテゴリー:短歌

短歌松村130329

猫の放恣 松村由利子

雨音を溜めおく青き壺ひとつある晩わっと泣くときのため

さみどりのかすかな濁り雪の降らぬ南の島の春の寂しさ

そのポットに触れてはならぬわたくしの感情濃いめに淹れてあるから

パンと祈りと図書館通い文語訳聖書のような母の日常

降り始めた雨に最初に気づく人 損な性分とは思うけど

マーマレード煮詰めゆく午後服を買う欲なくなりて何か危うし

頭骨の小ささ即ち愛おしさ膝に寛ぐ猫の放恣は

あんぱんが急に恋しくなる春昼ガリヴァー旅行記再読すれば

環礁の外に広がる藍深し写楽外人説を思えり

TPPに多分賛成しただろう政策通の田沼意次

次のニュースへ移る刹那の涼やかさ被災も不況も終わらないのに

夢の抱擁終わらぬままに醒めしのち塩味きつくスープ仕上がる

作者紹介

  • 松村由利子(まつむら ゆりこ)

1960年福岡県生まれ。歌人。「かりん」所属。歌集『鳥女』『大女伝説』のほか、『与謝野晶子』(中央公論新社)、『31文字のなかの科学』(NTT出版)、『語りだすオブジェ』(本阿弥書店)などの著書がある。

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