愛と答えん 小川汐梨
少年の秘密はベッドの下にあり覗く女に照準合わす
違和感をうっかり拾ってしまいたる女の勘ってやつが恨めし
ガリガリ君食べるいつもの横顔をひそかに見おり探偵の目で
線路沿い濃い影のなか立ち止まるかすかに壊れゆく蝉の声
ごみ箱のレシート漁る姿もし見られたらこれは愛と答えん
陽だまりの草に寝転ぶのどかさでこの部屋にいたわたしはだあれ
道端で潰れていたるカマキリの若草の色なおも清しき
甘えられるただ一人かもしれなくて歯医者にあああと口開きおり
神経を抜かれたはずの歯が痛む抜いても抜いても神経はある
背信は私の指を操って唇の皮を剥かせ続けた
許したい許したくない秋告げる天気予報が遠く聞こえる
作者紹介
- 小川汐梨(おがわ しおり)
1985年生まれ。東京都在住。
歌林の会所属。
2011年「かりん賞」受賞。