日録 森川雅美
正気ではないぼくたちの未来なら明日燃えていく人たちの言の葉もれて
失うは安らぎでありいくつもの足に踏まれバラバラの破片になって
バラバラの眼が見つづけるバラバラの掌つかむバラバラの語りかけても
バラバラを許しはしない正しいといういつわりにせめてもの否を記せよと
死んでいく人であるなら爪立てる道のはざまに正気ではないぼくたちの
冷えていく体の内に傷付いたままにとどまりまだ沁みる過度の汚染が
眩むまま迷宮になりバラバラの足首いたみバラバラの水の反射に
バラバラの土地を辿ればバラバラの沈黙の果てバラバラに眼が溢れだし
沈みいく片側からへ棒状になる背中へと誰ひとり結べはしない
言葉すら踏みにじられる正気ではないぼくたちの日日の手が忘却されて
ざらついた舌の面に切り結ぶ間合をとれば一面は荒れ果てていく
バラバラのぱらのいあにもバラバラの天国かさねバラバラの腹が痛んで
バラバラの念仏のあとバラバラへ水が満ちいく常ならぬ唾を吐きつけ
いつまでも呟いている心臓が破裂していく磨滅する足裏のために
正気ではないぼくたちのおとがいの崩れるままにただよいは漠とはじまり
見えぬうち熱狂は去る遠景に侵食するバラバラの巻頭言が
バラバラの末端としてバラバラの胴であるならバラバラの夕暮れになる
バラバラを天国に置く問い詰める喉元までも虚になる終の棲家の
ひきつれた笑いにも似る死にかけの腕を伸ばせば正気ではないぼくたちの
土すらも失われいく明暗のしずくに濡れていつまでも叫びは止まず
くぐつにもなる昼下がりバラバラの殺意にまでもバラバラの靴音までも
バラバラの隔絶までもバラバラの予感にまでもバラバラに末端となる
引き続く空蝉としてまだ消えぬ月影を追いいつまでも諍いつづき
人たちの怒りは止まず正気ではないぼくたちの体温は安定せずに
冷えていく掌こすりひび割れた空見あげれば突然の遠雷ひびき
バラバラの声が落下しバラバラの火が燃え上がりバラバラの流血つづき
バラバラの地軸が揺らぐバラバラへ靴音しるし片言のことばつぶやく
吹きすぎる風に切られて空気すら波紋になるひと粒の毒が目に落ち
正気ではないぼくたちのまだ見ない地形をたどる手に掴まれる