出航式   横山黒鍵

05212

出航式   横山黒鍵

足の痛みに目が冴えてしまった半月はそれ以上の風景を遮断して、朝

人魚姫の寓話を思い出すわけでもなくよつあしのふりをして四時の辻をかく

もはやあかるみに繊毛の柔らかさは解け

窓際のバジルの葉が眩しい目をこすりながら

締め忘れたカーテンの房染めすぎた髪傷んだ唇風の幻覚濡れた、濡れた

息継ぎの隙間を埋めるいいわけのかたちをたもつひびわれたひび

抜け落ちて軽くなった薬指を無意識に操舵して

あくびする歯のうらにある諍いの牙のしろさのくちなしが咲き

シーツに紛れ込んだ曖昧さのしわばみの航路

すべりこむせなかのしろさくちなしのかおりをもってくしざしにする

ぬくもりのたよりなさと引き換えに耳をとじ

ふたたび漕ぎだしていこうとする舟の影をひきもどすこともなく枕をただす

弔いの歌が聞こえてくるようにあなたにつたえる月は美し

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