形亡 / かたなき 栗生えり
朝焼けがすべての水を塗り替えて
アジサイに残るわずかな雨粒の
空を映して愚直に光る
未分化のことばがあった□(一呼吸)
発声とやや遅れ来る改行で
日常をいま切り取ってゆく
文字列に わずかな休符を 埋め込んで ことばは僅かに 軌道を描く
文字列に ちいさな余白を 突き刺して ことばは僅かに 形をしめす
からっぽの器に満ちるひびきたちわたしはここに何でも描ける
その自由その楽しさも忘れ只嵌め込まれてゆく文字たちの群れ
日常を切り取ることも忘れ只続くかたちに身を任すのみ
満ちてゆく文字情報が容量を満たす只々満たしゆくだけ
テーブルは傾いてなお水平を保とうとして僅かにきしむ
骨組みを失う恐怖にあらがって上から下へと只流れゆく
空間が感動が折りたたまれて改行に頼る文字たちの群れ
空白に甘える分子 改行に甘える分子 かたちはつづく
定型の終わ りを告げる改行 を恐れる文 字が意味たちを 引き連れてまた
次の行へと 逃げ込むように ずらずらと かろうじて体裁 を整えつつ並ぶ
この狭い空 間に詰め込まれ 文字たちは かたちを保って いる振りをする
ずれていく ことばを愚直に 追いかけて かたちがさきか ひびきがさきか
□□□□□ 無風のなかにひとり立つ
□□□□□ そしていつしか溢れ出す
ああいつしか嵌め込まれてゆくだけの文字
もう何も切り取ることができなくて文字列は只列を成す文字
未分化のことばのなかに身を隠す
原初の響きを思い描いて
ある型の終わりを告げる文字たちの無音の声よ響け朝焼け
定型の地平をにらめ風見鶏
かろうじてかたちを保つアジサイがあわれな文字を詩に駆り立てる