俳句時評 第44回 湊圭史 « 詩客 SHIKAKU – 詩歌梁山泊 ~ 三詩型交流企画 公式サイト

俳句時評 第44回 湊圭史

From Adelaide, Australia

いまオーストラリアを旅しております。パースとアデレードのフェスティバルを回るのが目的。豪州の主要都市では、二年に一度、大規模な文化系フェスティバルが開かれ、ヴィジュアル・アート、演劇、音楽などの催しや、様々なテーマの講演会が開かれます。今回はそのなかでも、この二年の間に著作を発表した作家たちが集うWriters Week(Festital)を取材中。

というわけで俳句から遠いところにいるわけですが、haikuという言葉はときあおり耳に入って来ます。The State Gallery of South Australiaで開催中のアデレード・ビエンナーレの展示で、二人のブレイクダンサー(おそらく日本人)の写真の解説になぜか「俳句的うんぬん」という言葉が入ってきたり、んんー?とうなる場面もあります。が、シリアスな俳句への興味が感じられる作品に出会うことも。

The Adelaide Festival of ArtsのWriters Week2日目(3月4日、ここのWriters Weekは6日間、朝9時半から18時半まで!行なわれています)。夕方のbook launch(出版お披露目会、ですかね)で、当地の詩人Mike Ladd氏の karrawirra parri: walking the torrens from source to sea が取り上げられ、朗読を聴くことができました。

タイトルのkarrawirra parriとは、アデレード周辺の先住民の言葉で、「レッド・ガム(ユーカリノキ)の川」、トレンス川を差します。アデレードを流れるこの川を、水源からたどってみようという企画で書かれた本。Ladd氏によると、松尾芭蕉「奥の細道」にインスピレーションを受けた haibun (俳文)だそうで、書き出しの雰囲気からもそこはかとなくそれが伝わってきます。

晩秋――私の旅の始まりは、この場所、スプリントンとプレザント山の間にあるアンダーソン農場のパドック(豪州では、放牧用の囲い地を示す)である。鉄岩の山稜が東西に走っていて、北の斜面からマーン川、南からはトレンス川が流れだしている。

ようやくの 
まっすぐ落ちる 最高の雨nbsp;
世界が私たちへの信頼を取り戻したようだnbsp;
At last, it’s raining.nbsp;
Straight down―the best kind.nbsp;
It feels like the world has some faith in us again.

パドックの上端で、二本のどっしりとしたレッド・ガムが、長い歳月の戦いで傷つき、捩れた姿で見張りをつとめている。この二人の兵士から、木々の列が南西へと続いている――トレンス川の最初のデッサンの線だ。(湊訳)

書き出しの部分、引用しましたが、どうでしょう? 散文とその間に、ぽつりほつりと俳句(的短詩)。こうした俳文形式は海外の俳句に興味をもつ詩人には魅力があるようで、アメリカの Red Moon Press からは現代haibun のアンソロジーも出ています。

Mike Ladd 氏の本の話に戻りますが、芭蕉「奥の細道」と同じく、古の道をたどる試みでもあり、その点でも精神をついでいると言えます。現在、アデレード周辺ではKaurnaと呼ばれる先住民コミュニティが認知されていますが、アデレードの街を見渡すとみごとなヨーロッパ風都市として完成されていて、かつての先住民の暮らしはどこにも見えない。その意味で、Ladd 氏の試みに失われたものへの鎮魂でもあり、芭蕉の名前がもちだされることに十分な正当性がありそうです。

最後のページに芭蕉の句の訳が載せられていますので、それを引いて、アデレードからの便りは終わりとします。

Clam ripped from its shell 
I move on to Futami Bay: 
passing autumn

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