Made in Japan 伊武トーマ
わずか半年前。
一流と呼ばれる都心のデパートのメンズフロアで
十五万六千八百円で売られていたMade in Japan。
ブランド物のセットアップ・スーツが
数回着ただけで九十パーセント以上OFF。
一万二千八百円で売っている二十四時間営業の
ディスカウントショップに群がる老若男女のゾンビたち。
彼らは既に死んでいて
彼ら自身は全く無益であり
彼らは歩く死体であるため
彼らは彼ら自身が起こす風を
感じることも
嗅ぎ分けることも出来ない。
元来。
粗野で悪文家の極みである政治家は
中身を偽り着飾ろうとして
平凡なことを難しい言葉で語ろうとする。
否定形に否定形を重ね
幾重にも幾重にも責任を回避して結局
何を肯定しているのか分からない行政機構の森の奥深く
紙の鎧をまとった官僚たちは
文体なき文脈の泥沼にどっぷり浸かっている。
「大切なのは普通の語で非凡なことを言うことである」と
ショウペンハウエルは言っている。
またこうも言っている。
「文体は精神の持つ顔つきである。それは肉体に備わる顔
つき以上に間違えようのない確かなものである」と。
未だ権威と名誉の衣で着飾ろうとする政治家は
着飾るだけですべてを官僚に丸投げし
私欲に満ちた文体なき文脈の泥沼に
どっぷり浸かった官僚たちは意のまま思いのまま
民間経営なら家賃三十万円以上する都心の一等地のマンションに
管理費・共益費込。月額わずか五万円で住んでいる。
そんな役人天国。
官僚主導の政治に毒され
自ら起こす風を感じることも
腐った風の臭いを嗅ぎ分けることも
出来なくなったゾンビたちはMade in Japanを探して
二十四時間営業のディスカウントショップに群がる。
一方。
どんなに不況と騒がれても
デパ地下にスーパーに
コンビニにファーストフード店にこれでもかと
食べ物はあふれ返り
たかが賞味期限というだけで
食べられるのにどんどん食べ物は捨てられて行く。
新鮮な残飯を餌にカラスは異常繁殖し
スズメもヘビの子も
カエルもカタツムリもナメクジもみんないなくなった。
動物園の檻の中のトラは
空を自在に行くカラスに怯え
怯えるトラの餌をかすめ取ろうと
カラスは鉄柵にじっと佇み
死神の鎌のような鋭い嘴を光らせる。
一羽。また
一羽。
Made in USAを模したディスカウントショップの
駐車場も兼ねた広いだけの屋根にカラスは舞い降りる。
何百という死神の鎌のような嘴が夕陽を反射し
異様な光を放っている。
スズメもヘビの子もカエルも
カタツムリもナメクジも食べ尽くし
新鮮な残飯も食べ飽きたカラスが
風を感じることも
風の臭いを嗅ぎ分けることも出来ない生ける屍
Made in Japanの歩く死体
ゾンビの血肉を狙っている。
Made in Japan
富める者はとどまり飢える者はさすらう。
Made in Japan
老いた夫婦は背を向けて眠り
恋人たちは真夜中の公園でさよならも言えずすれ違う。
Made in Japan
かつて
富める者ばかりで飢える者などひとりもいなかったこの国で
老いた夫婦は明けない夜に爪を立て
恋人たちはたがいの瞳に流れる星をつかもうと
ただ他人の視線に惑わされるばかりだ。
Made in Japan
二○一二年。自殺者が三万人を超え
その数が世界ワーストとなったこの国で
もはや富める者などいない。
Made in Japan
胃袋が満たされたあげく下剤でダイエットを繰り返し
糖尿病とスポーツクラブと
格差が広がる一方であるのに
ますます金次第でどうにでもなるこの国には
行き場所をなくしたゾンビばかりがさまよう。
Made in Japan
風よ吹け。
金で買われる拳や銃の代わりにカラスを駆り
幾千万の死神の嘴で血肉を啄め。
Made in Japan
風よ吹け。
三本足のカラスを呼び神風よ吹け。
革命を起こせ。