パフスリーブ タケイ・リエ
わたしの窓という窓を閉めわすれたために階段を上から
下まで雨が打っていってずぶ濡れた夜が肌にはりついた
のをいちまいずつ剥がしていくと足が生えたわたしの毛
が抜けてゆくから燃えない布につつんで暖炉に隠したの。
(すべらない声をコップの中に落として溶かす)
髪のことは尋ねないでほしいのに指でたしかめるように
掬いあげて語尾で跳ねあげる癖がついているひとが何人
も現れて消えてゆく夏が空に雲を噴きあげて暮れてゆく
斜めになった山の斜面をすべりだいにしてすべってきた。
(シャツのすきまに両腕をくるくるとからめて)
男のひとは残酷なものがたりに似ているから注意ぶかく
あつかうためにやさしく触ってあげる。なだめるように
なめしてあげる。うすくひろがって見えなくなるように
どこまでもいってあげるふりをしてそばにいるだけでも。
(迷宮をめぐってみせているゆび)
もぐるという行為は灰のなかにあって初めて意味になる
ことをひきのばされながら思ったりした天井を轢いても
目の前が紫色に染まってしまうから布のように広がって
溺れることなくつつむことだけに賭けると、教えたいの。
*
探されることだけを
ずっとねがってきた何千年が
パフスリーブになってひらひらしているの
風に飛ばされないように