妖精の庭 野村龍
霧生先生
骨になった感想はいかがですか
お通夜にも
告別式にも
僕は行けなかった
死体を見るのが
怖くて堪らなかったのです
いつもニヒルに構えていたあなたから
おや 野村くん
今日は死体に会いに来たのかな
なんて
不意に声を掛けられそうで
教育者は 教え子がいつ帰って来てもいいように
今の立場に ずっと留まるべきなのです って
あなた言ってたよね
今ほど
あなたに縋り付きたい時は
嘗て無いんだけど
あなた今
いったいどこにいるんだ
文学は 呪われた学問なんだよ野村くん
と言うのも
あなたの口癖だったけれど
学生でなくなってからも
文学に関わり続けたお陰で
人生まで
呪われたようですよ
仏文学者のくせに
コンピュータにも滅法強くて
ATコンパチ なんて言葉があった頃に
Windows 3.1 を 嬉々としてインストールしてましたね
今日は Wizardry が届いたから
教授会の間ずっと
僕はマニュアル読んでます なんて言ってたけど
あんた ほんとうにそれ やったのか
違う畑でそれだから
フランス語は化け物だった
進学して
ヴァレリーかマラルメをやりたいんです とお伺いを立てたら
君は語学がダメだからやめなさい って
即座に僕を叩き潰しましたね
でも
僕がようやく諦めて 公務員になったとき
先生は心から喜んでくれた
僕の親よりも 遙かに
だから 先生
あなた今
いったいどこにいるんだ