食べるより先に、住むより先に、 そらし といろ
1
猛獣の毛の
柄のシャツを
着ても柔らかい
素材の重なる
温い腰回り
2
生き物の味がする
生地をジグザグに走り抜けた
軌跡
生き物が生息する
生地の包容力は家に似ている
安寧
3
ふゆごとに
あひるをはだかにむく
手の鳥肌が悔やむ
毛皮を脱ぎ捨てた日のこと
4
スキンレスタラ、冷ややかな鮮魚コーナー
5
アルバムの服をたたむ
針金ハンガーは死んで
いないお前の
骨として庭で焼く
幽霊の足音を拾う
神経は抜いて線香にしよう
昼 町の防災放送
地面を最初の寝台としよう
おかえり おやすみ
6
小箱のコサージュ
はるかに咲いたバラの枯れない水色
再び胸へ飾るなら
記憶の蒼さに刺される覚悟を決めて
7
袖口から転げた
ボタンの代わりはいくつもあるし
ワイシャツを捨てる選択肢があれば
ワイシャツを着ないことを選んでもいい
とりあえずは、脱いでみてもいいんじゃないの
8
深夜に着て
朝方に脱ぐための
気配を探す日々
9
一枚の
布にしろ
皮にしろ
めくる感覚が楽しくて
永久機関としての玉ねぎになりたいよ
10
古着屋で買った
ストールの淡さ
首から肩へ巻いてゆく
帰路
角を曲がるたびに軽くなる
意識が鳥瞰図化して眩む目
なにやら言祝ぐ咆哮を遠くで聞いた
肩甲骨の熱さに泣きわめく
僕の声を祭囃子に舞う君は