りゅうつりくう 川津 望
体液が魚のはらわたのように苦くなる
車窓は雨で点描され
絵にならない内面が風景に伝ぱされる
だれにも顧みられない場所で
空箱の底の湿りけがリュウノヒゲの花を咲かせ
車内に迷い込んだ
りゅうつりくう りゅうつりくう 背なかから傘を吐きつづける
靴ぞこも濡れて
ギャラリーと作品のさかいが溶けあう
空間がゆるんできて
引力がからだにたしかめられる
呼吸の遠近感にささえられ
てゆびあしゆびの末端まで修復されない
手足は描かれたものだから触れられなくて
それらを自分の四肢とするためにたたずむ
見つめるひとびとの顔からは
判別できない身近なものがあふれる
りゅうつりくう りゅうつりくう 鬼火だ--世界に留まっているための
終電まぎわ 身のうちで警報が押される
精液やおりものでごったがえす
中央線車両内は停電
ひらいた液晶画面からブルーライトの面をつけ
つくられた輪郭は猶予に明るみ
みんな痩せてしまった
それぞれ草むらへ戻ると
団地のシャワーから噴きこぼれる塩素が
大気に寝息を浮かべてゆく
せなかですわっていると
澄んだ胃液は口内へせりあがってくる
腸内でうんこは困った表情をうかべ
笑いもするのだ
りゅうつりくう りゅうつりくう ここそこのぬけがらにいながら 皮ふが内臓を飲む 骨やコーラを飲む