遺跡修復 馬場めぐみ
元通りには戻らない歯を延々と修復してくれる歯医者さん
虫歯になった奥歯のように空洞は大きくなってゴミ箱になる
もう遥か昔に思い出と名付け遺跡となった筈のひとです
歯科帰りアドレスではなく番号で送信されるメールが届く
着信拒否受信拒否してアドレス帳から削除していたひとからだった
着信拒否受信拒否してアドレス帳から削除する程かかわっていた
どこよりも触れられたくはない所にことば放ってくるひとだった
蓋をして見ないで済ませてきた罰で今掘り起こす必要がある
痛覚を失わされた歯は増えるけど痛くてもこころは生身
俺も丸くなったと彼は書きそれはなんか伝わるから大丈夫
元通りには戻らなくてもいい場所にお互いにいる今が幸福
元通りには戻れなくとも遺跡のような銀歯思い出たずさえあるく
作者紹介
- 馬場めぐみ
1987年生まれ。第54回短歌研究新人賞受賞。無所属。