秋日濃しめし屋に味噌の握り飯
今回のテーマは、「日」である。このテーマで真っ先に頭に浮かんだのは、
腰太き南部日盛農婦かな 『天門』
であるが、この句は既に第20回(テーマ:女)に軽くではあるが一度採り上げたため、今回は別の句を俎上に乗せることとする。
掲出句は、第4句集『白光』所収。
仕立ては単純、句意も明快だ。一読してすぐ、秋の昼の食堂の光景が目に浮かぶ。降り注ぐ秋の外光と、油や煙の染みた仄暗い店内。造作といえば、長年使い込んだテーブルや手書きのメニュー。洒落た装飾など何もない、でも妙に懐かしく気分が落ち着く、そんな店だろう。
そして作者が頬張るのはシンプルな食事の極みの握り飯。少し歪な形かもしれない。味付けも味噌だけ。至って簡素な景色である。だが、作者はこの味噌握りをこよなく愛していることが伝わってくる。
時間が止まったような、或いは時代を超越した風景というべきか。セピア色の古い写真を想わせるが、秋の日差しは濃く眩しいほどの輝きを見せる。混じりけなしのリアリティによる句だと思う一方、どこか異次元の要素も感じる。虚と実が交差する不思議な世界が広がっている気がする。ふと「根元的」という言葉を思い出した。