戦後俳句を読む (20- 3) – 「女」を読む -成田千空の句/深谷義紀

荷一つの夜店をひらく女かな

今回のテーマは「女」である。正直に告白すれば難渋した。前回述べたように、千空作品の中で、「男」の姿は明確な輪郭をもって立ち上がってくる。北の大地で懸命に生きた農夫たちである。それに対し、「女」を描いた作品がいまひとつ脳裏に浮かんで来ないのである。

千空作品で取り上げられた女性といえば、まずもって母ナカと妻市子夫人であるが、彼女たちはむしろ「家族」という範疇で捉えるべき存在であろう。また、義母や伯母を詠んだ作品もあるが、これらも親類縁者という位置付けで考えるべきである。

一方、第8回(テーマ:肉体その他)で取り上げた、

虫送る生身の潤び女たち   『白光』

の句や、

雪やぶは女体の丸さ奥津軽   『白光』

などは「女」という性を取り上げて印象深い作品ではあるが、著しく象徴性が高い。

一時は、「具体的女性像が描かれていないのが千空作品の特徴だ」と結論付けて、半ば居直ろうかとも思いかけたが、句集をもう一度読み返し、あらためて「女」の句を拾ってみた。以下に幾つか記してみよう。

一つのカテゴリーは、前回の農夫の鏡写しのような農婦の句である。

腰太き南部日盛農婦かな   『天門』
新米を大きく握る農婦かな    『忘年』

もう一つのカテゴリーは、千空がある時期深く傾倒した太宰治関連の、

美しき白服の人園子なり   『忘年』
太宰忌や雨に花咲く女傘   『忘年』

などである。ちなみに、一句目の「園子」は太宰の娘、津島園子である。

だが、どちらのカテゴリーの句も、「女」をテーマとした千空の代表作というには何か物足りない気がした。

あきらめかけた頃、目に止まったのが掲出句である。

第3句集「天門」所収。

奇を衒った叙法もなく、句意は平明。だが、一読後鮮やかに一つの景が目に浮かぶ。少し蓮っ葉な感じの女でもいいだろう。何しろ女一人で夜店を切り盛りし、生き抜いてきたのだから。上五の「荷一つの」という措辞が、その女の今の姿を活写し、さらにはそれまでの人生を暗示するようである。

千空の眼差しは、慈愛に満ちたというより、むしろ淡々とそうした女性の姿を捉えている。しかし、決して突き放してはいない。淡々と詠むことで、かえってそうした女の姿あるいは人生を己に引き寄せているような印象がある。千空らしい「女」の詠み方だと感じた。

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