寒星明暗我が身のなかに眠る妻
第1句集『地霊』所収。
千空に妻恋の句は多く、新婚当初はもとより晩年に到るまで数多くの作品を詠み続けた。掲出句もその一つであるが、今回のテーマは「星または空」であり、千空の妻恋句全般については稿を改めて論じたいので、ここでは触れないでおくこととする。
さて掲出句である。冒頭「寒星明暗」と、漢字ばかりの、しかも字余りの措辞がいきなり置かれている。千空作品の特色のひとつである剛直な詠みぶりがここにも現われていると言えよう。そして中七以降は対照的に、愛しい妻が自分の腕の中で眠るという、読む者の胸に染み入るような構図が提示されている。
季節は極寒、しかも本州最北の津軽である。冷たい北の夜空に瞬く星の輝き、そして明滅。こうした深遠なるものと、妻という身近な愛すべき存在。寒の極みと生身の温み。見事なコントラストだと思う。この対照の鮮やかさとスケールの大きさにより、人が生きていくことの崇高さと、同時に味わわなければならない切なさが読者の胸に響いてくるのだろう。
第5回(テーマ:風土)で述べたように、千空は所謂「風土俳句」には否定的であり、今を生きる人間をこそ詠うべきだ、と主張した。その折も引いた千空自身の言葉を再度掲げよう。
「われわれは風土に生きていることは間違いない。と同時に、現代に生きているんだ。現代に生々しく生きているということと風土に生きているということ、この二つの問題を俳句の世界で生かす必要があるだろう」と。
(角川選書「証言・昭和の俳句」より)
掲出句もこの主張に沿ったものと言える。千空の眼差しは絶えず人間そのものに注がれ、千空にとって人の営みこそが俳句なのである。