見るとなく
小川 春休
筆の穂に獣のにほひ麦の秋
しづしづと植田の水へ通し鴨
瀧しぶき無数に蜘蛛の糸のうへ
玉ねぎの茎に抱きつき雨蛙
汗の引くまで遠山を見るとなく
夕焼や瀧すつぽりと陰のなか
日の暮のスワンボートのつどふ岸
みつしりと艶めくすもも歯の立たず
夏帽のかたちのいまだ残る髪
辞書入れて狭き書架なり熱帯夜
1976年広島県生まれ。大学時代、蕪村好きが高じて句作を始める。「童子」同人(北斗集欄)。句集『銀の泡』。『天の川銀河発電所 Born after 1963 現代俳句ガイドブック』に39句掲載。