文字化けする日々   井谷泰彦

文字化けする日々

文字化けする日々   井谷泰彦

琉球王国に焚字炉があった
道教の影響を受けた文字信仰であった
沖縄では、明治以前は文字を書いた紙片を踏みつけることは絶対になく
道に落ちた紙は「焚字炉」に捨てた

琉球王国の正史『球陽』尚育王四年の項にはこうある
「本年、焚字炉ヲ創建ス。冊封正使林鴻年、国ニ臨ムノ後、国人ヲシテ焚字炉
ヲ設ケテ字紙ヲ敬惜セシメント欲シ、特ニ字紙ヲ惜ムヲ勧ムノ文ヲ賜フ。即チ
国中ヲシテ場ヲ察シ、焚字炉ヲ設ケ以テ字紙ヲ敬セシム」(注1)

幸いなことにか不幸にか
当時沖縄で文字を扱う人々の数は極めて少なく
甘藷を植える農夫にとって
文字の書かれた紙は、梵字の記された護符と大差がなく
すべての文字はいわば「表霊文字」であった
表音文字と表意文字の羅列のなかに
表霊文字が「文字化け」しながら紙のなかいっぱいに広がる夜が今もあるよな

優れた小説作品の多くは
文字を読まない人々に向けて発せられてきた
「文学なんかちっとも必要としない人々へ」とあとがきに捧げた女性作家がい

文字によって隠されてきたもの覆われてきたものの
「文字化」「文字化け」
漢語に対して最初から和語が存在した訳ではない
「雨」という漢語が入ってきたときに
それまであった幾つもの種族語のなかから「アメ」という呼称が選ばれて
読み仮名として定着したのであって
「文字化」「文字化け」
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そして「文字化」け
それが文字化け

文字習得以前の人間の言語には、言語と音楽と舞踏が一であるような時代があ
りえたという事実は私をいたく興奮させた・
「文字化け」
みみらくの、熊襲の、口蝦夷の、佐伯の、国栖の、奄美の、
「文字化け」
ラインの、携帯電話の、G-mailの、オンデマンド教育システムの、あなたと私

「文字化け」
ステキな「文字化け」インチキ「文字化け」今日も「文字化け」
表音文字と表意文字の狭間から表霊文字が現出する
トーテムの、先祖霊の、三平等のノロ様の、根岸病院精神科の、
洩れる洩れる声紋のアウラ「文字化け」
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花鳥風月が「文字化け」
いまだにのカテキズムの「文字化け」
一面が全部「文字化け」で覆い尽くされた新聞紙が明日の朝届くはずだよ
電報の「文字化け」あわてる乞食はもらいがすくない
表音文字と表意文字の狭間から表霊文字が現出する
バレンタインデーに「文字化け」を送る
「文字化け」でコミュニケーションする
文字には「文字化け」で返す流儀の文字以前
「文字化け」を司る神様ごっこエンドレスばっかり
古いね
わかってるさ
化け化け化け化け
すっと喉を青空に向けてみる


(1)『球陽』三一書房 一九七一年刊三三二頁

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