時間を裏返すための十二の
「時間は細く長い回廊、内壁をめくって表皮とする」
闇に点くストーブ
伸びる寒さは水、廊下の奥
の火の横顔を摑み口に入れ
る小さな手の縮み縮んでゆ
く二十日鼠の胎児の指まで
遡れば書き替える記憶の砦
幼かった横隔膜
伸び悩むそれは土、湿る温
かさは掘られた穴に溜まる
水の粒粒抑えられてヒック、
抑えられてヒック、しゃっ
くりの音裏返せばクッヒ、
手をつないで
燃え盛る火の伸びて(ママ、
サイレン)ゆく先の空の下
項垂れる女ざまあ見ろと言
っていた眼とは裏返しめく
り返して焼け跡の煤の臭い
花咲か爺
燐寸擦ってその小さな草に
点ける炎、花は咲く?咲か
ないだって燃えてしまった
んだもの燃え滓の灰集めて
撒く小さな草の亡骸に涙、
強迫神経症
聳える山の草やわやわと、
水無し川に水生まれて遡る
泉の名前、揺れる大地、地
震が来たら逃げられる竹藪
のある家に住みたかった子
郷里
手で触れる土の粒粒、山の
麓岩が語っていた日の光の
やわらかい皮膚に擦り込ま
れてゆく土の粒子、離れま
す私は土と離れていきます
辿るべき道
埋もれる、溶ける金の首根
っこ押さえて蹴飛ばせば天
翔る馬もう捕まらねえぞあ
っかんべえーした眼の中の
水晶に映る未来の燃えて、
通学バス
光る鉱石、温めて草の、熱
い土の、乾いた吐息吹きか
けて指でなぞる白抜きの文
字、未学習の漢字は平仮名
で書くその向こう側の風景
しがらみ
海の水流れる右から左へ、
右から左へと流れる山、移
動する海そして岩犇めく船
虫トイレに行きたいのにト
イレがない親の手を握った
宝箱
そぼ降る雨の滴鏤めて透明
な石、ドライブ・インで買
ったキャンデーの缶にティ
ッシュを敷いて並べる三十
年後に届く回廊は晴れた湖
東の欠如
薪の焚火結晶する鉱石を秘
する山岳それが親でした、
子供が生まれると人生が狂
う運命それが親でした、さ
ようなら火は燃えて空に光
時間の回廊
薔薇の形をもう用意してい
る病んだ木の下冷たい海の
移動する水、ひとつひとつ
根を掘り起こす根絶やしに
する春の光は時を遡って、